社会福祉法人監査(法定監査及び任意設置の会計監査人業務)
社会福祉法人監査(法定監査及び任意設置の会計監査人業務)
~選任・体制整備から徹底支援。適正報酬で高品質な監査を~
平成28年の社会福祉法改正以降、経営組織のガバナンス強化が求められる中で、「会計監査人」の役割はますます重要性を増しています。「特定社会福祉法人」への移行に伴い、新たに会計監査人の設置義務が生じる法人様はもちろん、制度開始から数年が経過し、監査の質の向上やコスト適正化のために、現在の会計監査人の変更(リプレイス)を検討される法人様も増えています。また、法人の透明性向上を目的として、任意で会計監査人を設置する事例も増加しています。
「事業収益が30億円を超えそうだが、いつから監査契約が必要なのか?」
「現在の監査報酬は適正なのか、あるいは形式的な監査になっていないか?」
「福祉独自の会計基準に精通した、相談しやすい専門家を選びたい」
会計監査人の選任は、単なる法対応のコストではなく、法人の透明性と社会的信用を高め、未来の経営基盤を盤石にするための重要な投資です。
本ページでは、社会福祉法人監査に特化し、数多くの実績を持つ監査法人ユウワット会計社が、設置義務の判定基準から、気になる監査報酬の相場、失敗しない選任プロセス、そして効果的な監査導入の準備までを網羅的に解説します。
貴法人の発展に寄与する、最適なパートナー選びの一助となれば幸いです。
目次
【Q1】社会福祉法人の会計監査人、設置義務の基準とは?
平成28年に施行された改正社会福祉法により、社会福祉法人制度は大きな変革期を迎えました。この改革の柱の一つが、経営組織のガバナンス強化と財務規律の強化です。その具体的な施策として、一定規模以上の社会福祉法人に対して「会計監査人」の設置が義務付けられました。外部の専門家による会計監査を通じて、法人の運営の透明性と社会的信頼性を高めることが期待されています。
会計監査人設置が義務となる「特定社会福祉法人」の定義
社会福祉法において、「特定社会福祉法人」では会計監査人の設置が義務付けられます。自法人が特定社会福祉法人に該当するか否かは、事業規模を示す2つの具体的な数値基準によって判定されます。
- 最終会計年度における事業活動計算書の サービス活動収益が30億円を超える 法人
- 最終会計年度における貸借対照表の 負債額が60億円を超える 法人
これらの基準のいずれか一方にでも該当した場合、その法人は特定社会福祉法人となり、会計監査人を設置する義務を負うことになります。
設置義務の判定タイミング
上記の基準をいつの時点の決算数値で判定すべきかを知るには、「最終会計年度」の定義を正しく理解することが重要です。
社会福祉法施行令第13条の3では、最終会計年度を「各会計年度に係る計算書類につき承認を受けた場合における当該各会計年度のうち最も遅いもの」と定義しています。これは、直近で定時評議員会の承認を受けた事業年度の決算数値を指します。
例えば、令和7年6月の定時評議員会で令和6年度(令和7年3月期)決算が承認された場合、この令和6年度のサービス活動収益と負債額を用いて、会計監査人の設置義務があるかどうかを判定します。特定社会福祉法人に該当することとなった場合には、令和7年6月の定時評議員会時に会計監査人の選任が必要となります。
任意での会計監査人設置
上記の設置義務基準に該当しない法人であっても、会計監査人を設置することは可能です。法人のガバナンス強化や透明性の向上を目的として、任意で会計監査人を導入する法人は少なくありません。
【Q2】会計監査人の役割と選任方法は?
ここでは、会計監査人が担う具体的な役割と権限、そして適正な選任プロセスについて解説し、法人が戦略的に会計監査人と連携していくための基礎知識を提供します。
会計監査人の主な役割と権限
会計監査人の最も重要な役割は、法人が作成した計算書類等が適正であるか否かについて、独立した立場から意見を表明することです。
会計監査の対象となる書類
- 法人単位貸借対照表
- 法人単位資金収支計算書
- 法人単位事業活動計算書
-
附属明細書
(借入金明細書、寄附金収益明細書、補助金事業等収益明細書、基本金明細書、国庫補助金等特別積立金明細書) - 財産目録
これらの書類が、社会福祉法人会計基準に準拠して適正に作成されているかを専門的な見地から検証します。
会計監査人の資格要件
会計監査人は公認会計士または監査法人でなければなりません。公認会計士法では、監査の独立性を確保するため、自己監査の禁止(二重責任の原則)が定められています。これは、自ら関与した業務の成果物を自ら監査することを防ぐための重要なルールです。
例えば、法人の経理業務を受託している公認会計士(税理士登録している公認会計士が顧問税理士である等)が、その法人の監査も同時に担うことはできません。
会計監査人の選任プロセス
会計監査人の選任は、法人のガバナンスの根幹に関わる重要な手続きであり、主に以下の流れで行われます。
- 定款変更: 会計監査人を設置する法人は、定款変更の手続きを行う必要があります。
- 議案の決定: 会計監査人の選任等に関する議案の内容は監事の過半数をもって決定します(社会福祉法第43条第3項において準用する一般法人法第73条第1項)。
- 選定プロセス: 法人の契約行為における透明性を踏まえ、複数の会計監査人候補者から提案書等を入手し、法人において選定基準を作成して比較検討の上、選定することが望ましいとされています。
- 選定基準の策定: 選定に際し、価格のみで選定することは適当ではありません。監査の実施体制や実績、品質管理体制、監査に要する費用など、総合的な評価基準を設けることが推奨されています。選定基準の具体的なイメージは、厚生労働省の通知「社会福祉法人制度改革の施行に向けた留意事項について(経営組織の見直しについて)」のP28に掲載されています。(厚生労働省平成28年11月11日)
任期と再任手続き(みなし再任)
会計監査人の任期は1年ですが、役員(理事・監事)とは異なり、毎年の煩雑な再任手続きは不要です。
- 任期: 選任後1年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで。
- 再任(みなし再任): 定時評議員会において別段の決議(解任や不再任)がなされない限り、自動的に再任されたものとみなされます。この仕組みにより、安定した監査環境の継続が図られています。
【Q3】会計監査の報酬相場と費用対効果は?
会計監査の導入を検討する際、多くの法人様が最も懸念されるのが監査報酬の費用です。
監査報酬の決定プロセス
社会福祉法では、会計監査人の報酬額について具体的な定めはありませんが、報酬の決定プロセスは明確に規定されており、適正な手続きを踏むことが求められます。
- 会計監査人(候補者)から見積額を徴収し
- その見積額につき、監事の過半数の同意を得る
- 理事会(又は委任を受けた理事)が決定する(法第45条の19第6項において準用する一般法人法第110条)
監査報酬の相場(目安)
日本公認会計士協会毎年実施している「監査実施状況調査(2023年度)」によると、監査報酬の平均は以下の通りです。
- サービス活動収益計30億円未満:平均 2,647千円
- サービス活動収益計30億円以上:平均 5,145千円
会計監査によるメリット(費用対効果)
- 経営組織のガバナンスの強化: 外部の専門家の視点が入ることで、理事会の意思決定プロセスや財務報告体制に対する客観的な評価・助言が得られます。監査手続として実施される内部統制システムの検証と合わせ、内部牽制機能が強化され、より健全で規律ある組織運営が実現します。これは、不正や誤謬のリスクを未然に防ぐだけでなく、経営の質そのものを向上させる効果があります。
- 事業運営の透明性の向上: 監査済み計算書類を公開することで、所轄庁や地域住民、金融機関、寄附者といった多様なステークホルダーに対する信頼性が向上し、資金調達や寄附金募集において有利に働くことが期待されます。
- 財務規律の強化: 会計監査のプロセスを通じて、社会福祉法人会計基準に準拠した適正な会計処理が徹底されます。これにより、法人の財産状況や経営成績が正確に報告されるため、経営陣はより質の高い情報に基づいて的確な経営判断を下すことが可能になります。また、定期的な会計監査人監査は不正経理のリスクを大幅に低減させ、法人の財産を保全する上で重要な役割を果たします。
- 指導監査の周期延長: 所轄庁の判断により法人本部の監査周期の延長(原則3箇年を5箇年まで)や、会計管理に関する監査事項の省略が可能となります。
会計監査導入による効果は、「社会福祉法人の会計監査人に関するアンケート結果」(令和元年8月30日厚生労働省社会・援護局福祉基盤課)が参考になります。
【Q4】会計監査の具体的な流れと必要な準備
会計監査は、監査人にすべてを任せるものではありません。法人側の主体的な準備と協力があって初めて、効率的かつ効果的に進めることができます。
会計監査の年間スケジュール例
会計監査は、決算後だけに行われるものではなく、年間を通じて計画的に実施されます。年間スケジュールの一例を示すと以下の通りです。
7月~12月:内部統制・期中取引の検証
- 理事・監事へのインタビュー
- 法人運営・日常業務のルール確認(予備調査)
- 会計ソフト利用状況の確認
- 拠点訪問・期中取引テスト
1月~3月:改善・決算準備
- 発見された問題点の改善状況確認
- 決算スケジュールの調整
- 監査必要資料の事前依頼
4月~6月:期末監査・報告
- 実地棚卸・現物確認(固定資産・現金等)
- 確認状の発送・回収(預金・債権債務等)
- 計算書類の詳細検証
- 監査報告書の提出
監査導入準備のポイントと対策
スムーズな監査導入のために、以下の項目について事前の整備をお勧めします。
① 業務手順の組織共通化
業務が担当者任せになっていませんか?
対策:
・業務マニュアルの整備
・組織共通の業務プロセスの文書化
・内部統制の構築
② 会計根拠資料の整理
証憑と会計処理の紐づけができていますか?
対策:
・伝票番号による会計処理と証憑の関連付け
・法人内共通の証憑書類等の保管ルール策定
③ 根拠資料の網羅的保管
すべての会計処理に根拠資料がありますか?
対策:
・契約書・検収書等の適切な取り交わし
・システムデータの決算日時点での保存
・口頭取引から書面取引への改善
④ 内容不明残高の解消
「その他」「諸口」で内容不明な残高はありませんか?
対策:
・過去帳簿を遡った内容調査・整理
・定期的な勘定残高内訳作成と差異確認
⑤ 発生主義会計への対応
現金主義で処理している項目はありませんか?。
対策:
・賞与引当金算定のための支給額見積体制整備
・未払人件費計上のための勤怠データ保管
・補助金の案件別管理体制構築
⑥ 固定資産管理体制の整備
固定資産台帳と現物の照合ができますか?
対策:
・固定資産番号の付与と現物への表示
・定期的な現物確認の実施
・取得・移動・廃棄の適切な台帳反映
⑦ 実地棚卸の精度向上
正確な実地棚卸ができていますか?
対策:
・棚卸実施マニュアルの策定
・棚卸原票使用とダブルカウントの導入
・担当者への事前周知徹底
⑧ 在庫受払記録の作成
販売用在庫の受払記録を作成していますか?
対策:
・継続的な受払記録の整備
・実地棚卸との比較管理
・監査人による検証手段の確保
監査導入をスムーズに行うために積極的な早期関与の活用を
監査契約前でもアドバイザリー契約等で公認会計士の指導を受けることで、効果的な準備が可能です。改善事項の優先順位付けや体制整備時間の確保につながり、結果的に導入コストを抑えることにもつながります。
【Q5】会計監査人と監事の役割分担と効果的な連携方法
社会福祉法人において監事と会計監査人が双方の強みを活かし協働することは、監査の実効性を高めるうえで不可欠です。
法令に基づく監事と会計監査人の役割
監事と会計監査人は、それぞれ異なる立場から法人の健全性をチェックします。
-
監事(業務監査・会計監査):
理事の職務執行を監査する機関です(社会福祉法第45条の18)。業務及び財産の状況を調査する権限を持ち、監査報告書を作成します。 -
会計監査人(会計監査):
計算関係書類及び財産目録の会計記録を専門的立場から監査し、会計監査報告を提出する責任を負います(社会福祉法第45条の19)。
なお、監事・会計監査人ともに「役員等」として位置づけられ、任務懈怠があれば法人に対する損害賠償責任を負います(社会福祉法第45条の20)。
効果的な連携方法とコミュニケーション
監査の実効性を高めるためには、双方向の情報共有が欠かせません。 日本公認会計士協会の「監査基準委員会報告第260号(監査役等とのコミュニケーション)」においても、監査人と監事が適時報告・協議を行うことが求められています。
公認会計士から監事へ「監査計画の説明」を行い、期末には「監査の概要及び結果の報告」を書面で提供する方法により、年度を通じて少なくとも二度の正式なコミュニケーション機会を設けています。
また、特定社会福祉法人の監事は、会計監査人の「監督者」としての役割も担います。会計監査人が独立性を保持し、かつ適正な監査を実施しているかを監視・検証し、必要に応じて説明を求めることが重要です。
連携による3つのメリット
会計監査人と監事が密に連携することは、法人経営に以下のメリットをもたらします。
1. 財務情報の信頼性向上と社会的信用の強化
内部監査(監事)と外部監査(会計監査人)の二重チェックによって計算書類の適正性が確保され、利用者や行政、支援者等のステークホルダーからの信頼が向上します。
2. 経営課題の早期発見と解決
会計監査人と定期的にコミュニケーションを取ることで、法人の抱える経営上の問題点が浮き彫りになりやすくなります。双方が共通認識を持つことで、不正の予防・早期発見効果も高まります。
3. 内部統制の充実と効率的な運営
監査プロセスで業務フローが「見える化」され、非効率やリスクの高い部分が特定されます。その結果、内部統制の改善や業務の効率化が進み、法人全体の経営力強化につながります。
相互の尊重と理解
最後に、監事と会計監査人の双方は「お互いの役割範囲を理解し尊重すること」が重要です。
監事は会計監査人に丸投げせず、自らも会計分野の理解を深める努力が求められます。同時に会計監査人も、監事から現場の実情を積極的に聞き取り、形式的な監査意見にとどまらず実務に役立つ助言を提供する姿勢が望まれます。
スムーズな導入のために:早期関与の活用
監査契約前でもアドバイザリー契約等で公認会計士の指導を受けることで、効果的な準備(体制整備)が可能です。
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