2026年8月17日

「大学の資産運用ガイドブック」の策定と有価証券の時価情報開示の充実について ― 令和8年度決算から計算書類の注記・事業報告書の記載が変わります

令和8年7月22日、文部科学省と経済産業省の連名で「大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック」が策定され、同日付で文部科学省高等教育局私学部参事官から通知(8高私参第8号)が発出されました。

大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック」の策定及び学校法人会計における有価証券の時価情報等に関する情報提供の充実について(通知)
大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック

本通知のポイントは大きく分けて以下の2つです。
①国公私を通じた大学向けの「資産運用ガイドブック」が策定され、学校法人にも法人の実情に応じた適切な資産運用の実施が要請されたこと
令和8年度決算から、学校法人会計における有価証券の時価情報等の情報提供を充実させるため、計算書類の注記事項および事業報告書の記載が見直されること

特に2点目は、現在進行中の令和8年度(令和9年3月期)の決算実務に直結する変更です。本稿では、経理担当者・事務局の皆様に押さえていただきたい開示の変更点を中心に、ガイドブックの概要とガバナンス上の留意点を解説します。なお、本通知は各文部科学大臣所轄学校法人理事長宛てに発出されるとともに、各都道府県知事に対して所轄学校法人等への周知が依頼されています。知事所轄法人における具体的な取扱いは、所轄庁からの通知等をご確認ください。

1.通知の全体像

通知の構成は以下のとおりです。

– 別紙: 有価証券の時価情報等に関する情報提供の充実を図るための計算書類の注記事項及び事業報告書の見直しについて
– 別添1・2: 「大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック」概要・本体(令和8年7月22日 文部科学省・経済産業省)
– 参考1〜3: 「大学の資産運用実態把握等調査」の結果、取組事例集、資産運用に関するチェックリスト
– 別添3: 学校法人会計における計算書類の注記事項 記載例
– 別添4: 事業報告書及び附属明細書 参考例
– 別添5・6: 「日本成長戦略」(令和8年7月21日閣議決定)(抜粋)、「成長投資を促進するための金融戦略」(令和8年7月21日内閣官房策定)(抜粋)

背景には、少子化の進展による学生生徒等納付金収入の減少見込みと、インフレ環境下では「預金・債券中心」の運用のみでは実質的な資産価値が目減りするリスクがあるという問題意識があり、政府の成長戦略とも連動した政策パッケージとなっています。

2.会計実務への影響 ― 令和8年度決算からの開示見直し

2.1 計算書類の注記事項: 有価証券の時価情報(明細表)の細分化

注記事項「15. その他財政及び経営の状況を正確に判断するために必要な事項(1)有価証券の時価情報」のうち、明細表における有価証券の種類ごとの内訳の記載が細分化されます。これに伴い、「学校法人会計基準の一部改正に伴う計算書類の作成等について(通知)」(令和7年3月27日付け6高私参第27号。以下「令和7年通知」)の別添2で示された注記事項記載例が、本通知の別添3のとおり改められました。

見直し後の明細表では、種類ごとの内訳が次のように区分されます(総括表の様式は従来どおりです)。

債券: 国内債券 / 外国債券 / 仕組債
株式: 国内株式 / 外国株式
投資信託: インデックスファンド(ETFを含む) / REIT(不動産投資信託) / その他
その他: プライベートエクイティ / プライベートデット / その他

従来の「債券・株式・投資信託・その他」といった大区分から一段掘り下げ、特にリスク特性の異なる仕組債が独立の区分として明示される点が特徴です。ガイドブックの参考資料でも、学校法人では仕組債の運用が運用資産全体の1割程度を占めること、仕組債は複雑な金融商品であり大きな損失の可能性や流動性リスクがあることが指摘されており、開示面でもその保有状況が明確に読み取れるようになります。

2.2 事業報告書: 「資産運用の状況」の記載充実

事業報告書参考例「3. 財務の概要(2)その他 ①資産運用の状況」についても、令和7年通知の別添6で示された参考例が本通知の別添4のとおり改められました。記載項目として、以下が挙げられています。

– 運用目的、運用目標、運用方針(基本ポートフォリオを含む)
– 資産運用に関するガバナンス体制、運用体制
– 本年度の運用の概況(運用目的ごとの貸借対照表計上額、時価、収益の状況等)

そのうえで、資産運用の中長期的な状況が明らかとなるよう、次の図表を示すことが「望ましい」とされています。

– 有価証券の貸借対照表計上額と時価情報の経年比較(複数年度分。時価のない有価証券を除く)
法人の収入全体に占める資産運用収入(受取利息・配当金+有価証券売却差額)の割合が分かる図表

2.3 実務対応のポイント

令和8年度決算からの適用となるため、決算期直前ではなく、今年度の早い段階から以下の準備に着手されることをお勧めします。

保有有価証券の区分の棚卸し

新しい明細表の区分(国内/外国、仕組債、インデックスファンド/REITなど)に沿って、現在保有する有価証券を分類し直す作業が必要です。特に投資信託については商品性の確認が、債券については仕組債への該当有無の確認が必要となる場合があります。判断に迷う商品は、取引金融機関からの商品説明資料等を早めに取り寄せて整理しておくとよいでしょう。

時価情報等のデータ整備

経年比較の図表を作成する場合、過年度分の貸借対照表計上額・時価・差額のデータを一覧化しておく必要があります。また、資産運用収入の割合を示す場合は、受取利息・配当金や有価証券売却差額を集計できるよう、勘定科目・補助科目の整理も確認しておきたいところです。

会計システム・決算資料の様式見直し

注記の明細表様式が変わるため、決算資料の作成手順やシステムから出力する残高資料との対応関係を見直し、担当者間で新様式を共有しておくことが重要です。

3.ガイドブックの概要 ― 理事会・監事が押さえるべきポイント

ガイドブック本体は、これから資産運用を開始する法人と高度化を検討する法人の双方を対象に、現状・課題、基本的概念、検討すべき事項を体系的に示したものです。事務局から理事会・監事への情報提供の観点から、要点をご紹介します。

3.1 現状と課題

参考資料の「大学の資産運用実態把握等調査」では、小中規模法人は現金預金・国内債券中心の安全性重視の運用であること、大規模法人でも現金預金・債券が8割を超える法人が約6割あることなど、法人間の二極化が示されています。また、運用目標等を未設定の法人が多く、資産運用のための人材・機関等の設置も進んでいないなど、体制・ガバナンスの整備に課題があるとされています。なお、ガイドブックでは、平成21年の文部科学省通知等は学校法人において元本が保証されない金融商品による資産運用を行うことを妨げるものではないことが明確化されています。

3.2 求められる対応の3本柱

基本スタンスの策定

「運用目的(何のために運用するか)」
「運用目標(目指すリターンと許容リスク)」
「運用方針(基本ポートフォリオ、モニタリングの在り方等)」
の3点を、理事長等のリーダーシップの下、理事会等として責任を持って検討・策定し、関係者間で共有することが重要とされています。外部機関に判断を委ねるのではなく、法人として自ら方針を定めることが求められます。

体制・ガバナンスの整備

理事会等としての意思決定・モニタリング、資産運用委員会等の設置、責任者・実務担当者の権限明確化、必要に応じた外部の専門的知見(OCIO等)の活用、人材の計画的な確保・育成が挙げられています。

評価・情報提供(見える化)

運用状況の評価は、単年度・短期的損益ではなく中長期的な視点で行い、時価ベースのトータル・リターンやインフレ影響を加味した実質リターンの把握が重要とされます。評価結果は適時理事会等へ報告し、PDCAサイクルを機能させることが求められます。今回の注記・事業報告書の見直しは、この「見える化」を制度面から後押しするものと位置づけられます。

3.3 理事・監事の役割

ガイドブックでは、理事は善管注意義務に基づき資産を不用意に毀損させないことが求められるとされています。他方、現場には「損失が生じた際に善管注意義務違反として責任追及されることを懸念し、積極的な資産運用に踏み切れない」との声もあることを踏まえ、善管注意義務違反は、単に損失が生じたという結果のみではなく、適切なガバナンス体制に基づいて意思決定が行われたか、意思決定に用いた資料は十分であったか、当該資料を十分に精査したかなどの判断過程、およびその判断過程に基づきなされた判断内容等を総合的に考慮して認定・判断されるものと整理されています。このため、理事がそうした役割を適切に果たしてもなお資産運用による損失が生じたという場合には、損失が生じたこと自体の結果責任が問われるものではない、とされています。逆にいえば、意思決定の過程と根拠資料を整え、議事録等の記録として残しておくことが重要といえます。

また、監事には、法人が定めた方針から外れた資産運用が行われていないかなどの監査を通じて、適切な資産運用の実施を担保する役割が期待されるとされています。

あわせて、資産運用を行う大学はアセットオーナー・プリンシプル(令和6年8月 内閣官房公表、受入れは任意でコンプライ・オア・エクスプレイン方式)の受入れを行うことが望ましいとされています。令和8年7月1日時点の受入れ状況は、国立大学法人13法人、学校法人23法人です。

3.4 チェックリストの活用

参考資料3として、現状認識・基本スタンスの策定・体制整備・評価等の観点から自己点検できる「大学の資産運用に関するチェックリスト」(ガイドブックの該当ページ付き)が示されています。資産運用の規模にかかわらず、自法人の現在地を確認するツールとして有用です。まずは理事会・資産運用委員会等でチェックリストに沿った棚卸しを行うことが、対応の第一歩となります。

4.まとめ ― 事務局が今から準備すべきこと

開示対応(全法人共通): 令和8年度決算から、有価証券の時価情報の明細表が細分化されます。保有有価証券の区分整理と決算資料の様式見直しに早めに着手しましょう。
事業報告書: 資産運用の状況について、経年比較や収入に占める資産運用収入割合の図表を示すことが望ましいとされました。過年度データの整備を進めましょう。
ガバナンス: 資産運用を行っている(または検討する)法人は、運用目的・目標・方針の3点と体制・モニタリングの現状を、ガイドブックとチェックリストに照らして点検し、理事会・監事と共有しましょう。

なお、個々の金融商品の区分や具体的な会計処理・開示の適否については、法人の状況により判断が異なる場合がありますので、詳細は担当者にご相談ください。

出典

– 文部科学省「『大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック』の策定及び学校法人会計における有価証券の時価情報等に関する情報提供の充実について(通知)」(8高私参第8号 令和8年7月22日)

– 文部科学省・経済産業省「大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック」(令和8年7月)および同概要・参考資料(調査結果・取組事例集・チェックリスト)

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