2024年2月21日

地域人口の将来推計について

わが国の人口は、平成20(2008)年前後の1億28百万人をピークに減少局面に入っていますが、その増減傾向や構成割合は地域によって異なります。社会福祉・介護や医療に従事する際に、地域の人口は需要動向を左右するのみならず、従事者確保にも影響することから、地域の人口動向を把握することの重要度は大きいと言えます。

人口の将来推計方法はいろいろありますが、精緻で最も認知されているのは国立社会保障・人口問題研究所(以下「社人研」と言います。)の推計です。概ね5年ごとに公表されますが、2023年12月22日に新たな推計が公表されたので、その概要と活用例をご紹介します。

社人研の推計の概要

社人研では、5年ごとの「国勢調査」(総務省統計局)の結果を受けて「日本の将来推計人口」を推計し、その後都道府県・市区町村ごとの「日本の地域別将来推計人口」を推計、公表しています。

今回の推計の出発点となる基準人口は令和2(2020)年に実施された「国勢調査」による同年10月1日現在の市区町村別、男女・年齢(5歳階級)別人口(総人口)で、推計期間は令和2(2020)~32(2050)年まで5年ごとの30年間、推計内容は男女・5歳階級別(最高は「95歳以上」でまとめられています)の人口です。なお、この推計の結果は、昨年4月に公表された「日本の将来推計人口」(出生中位・死亡中位仮定)による男女・年齢別推計人口の値と合致します。

国立社会保障・人口問題研究所による日本の将来推計人口

都道府県別の将来推計人口

2050年の総人口は、東京都を除いたすべての道府県で2020年を下回り、秋田県、青森県、岩手県、高知県、長崎県、山形県、徳島県、福島県、和歌山県、山口県、新潟県の11 県では2050年の総人口が2020年と比較して30%以上減少します。

東京都、愛知県、沖縄県では65歳以上人口の増加が2050年まで継続する一方で、非大都市圏を中心とした地域では減少に転じ、26道県で2050年の65歳以上人口は2020年を下回ります。

市区町村別の将来推計人口

2050年の総人口が2020年の半数未満となる市区町村は約20%に達します。また2050年には、65歳以上人口が総人口の過半数となる市区町村が30%を超える一方で、2050年の65歳以上人口が2020年を下回る市区町村は約70%に達します。つまり高齢化率は上昇するものの高齢者数自体は減少するという市区町村がそこかしこに出現することとなります。

介護保険受給者等の将来推計

厚生労働省の「介護給付費等実態統計」の月報では、全国の介護保険受給者数や要介護認定者数が性・年齢(5歳)階級別に公表されています。2020年10月(2020年11月審査分)の受給者数・認定者数を「国勢調査」の人口で除すことで性別・年齢階級別の受給率や認定率が得られます。それらを地域の将来推計人口に乗ずることにより、当該地域の都道府県や市区町村の将来の受給者数や認定者数を試算することができます。

厚生労働省「介護給付費等実態統計」月報2020年10月(2020年11月審査分)
統計表 3 受給者数,要介護(要支援)状態区分・性・年齢階級別
統計表19 認定者数,要介護(要支援)状態区分・性・年齢階級別

あくまでも、①全国平均の性・年齢階級別の要介護(要支援)状態が各都道府県・市区町村に当てはまり、②その状態が将来においても変わらないという仮定のもとの試算とはなりますが、当該地域における将来の傾向を把握することができます。

医療機関の場合は、厚生労働省が3年ごとに実施する「患者調査」で、性別・年齢階級(10歳)別の疾病大分類ごとの受療率が、全国と都道府県単位で入院・外来別に公表されており、同様の試算が可能です。

厚生労働省「患者調査(令和2年)」
都道府県編 閲覧(報告書非掲載表)
表番号33-1 受療率(人口10万対),性・年齢階級(10歳) × 傷病大分類 × 入院-外来・都道府県別(総数)
表番号33-2 受療率(人口10万対),性・年齢階級(10歳) × 傷病大分類 × 入院-外来・都道府県別(入院)
表番号33-3 受療率(人口10万対),性・年齢階級(10歳) × 傷病大分類 × 入院-外来・都道府県別(外来)

これら以外にも、種々の統計や情報と組み合わせることにより、地域の将来像が見えてくると考えます。

介護保険の認定者と受給者の地域別将来推計

上述のデータを用いて、都道府県別、市区町村別に要介護度別認定者数及び要介護度別受給者数を試算するエクセルファイルを作成しました。どなたでもダウンロードして頂けますのでご自身の関連する地域の試算結果にご興味をお持ちの方など、ご自由にご活用下さい。

試算方法について

厚生労働省の「介護給付費等実態統計」の2020年11月審査分の月報にある要介護(要支援)状態区分別・性別・年齢階級別の受給者数・認定者数を、それに相当する「国勢調査」の人口で除すことで、要介護(要支援)状態区分別・性別・年齢階級別の受給率や認定率の全国平均が算出できますが、今回は「国勢調査」の代わりに「日本の将来推計人口(令和5年推計)」の2020年データを用いて算出しました。

介護保険統計の年齢階級は「40~64歳」、「65~69歳」、「70~74歳」、「75~79歳」、「80~84歳」、「85~89歳」、「90~94歳」、「95歳~」の8段階なので、それぞれ要介護(要支援)状態区分別・男女別に受給率と認定率を算出し、それらを年齢階級に相当する地域の性別の将来推計人口に乗ずることにより、当該地域の都道府県や市区町村の将来の受給者数や認定者数を要介護(要支援)状態区分別に試算・集計しました。

Excelファイルについて

容量の関係で上記の集計結果を「集計Data」シートに貼り付けました。シート内の13,664行の全データをソートの範囲としているので、各列での集計も可能です。「抽出」シートに都道府県名(「全国」を含む)を入力すると都道府県単位のデータが、都道府県名と市区町村名を入力すると市区町村単位のデータが、抽出できます (【Graph Data①】は認定者の要介護(要支援)状態区分別データ、【Graph Data②】は受給者のデータです)。このグラフデータで作成したのが「Graph」シートのグラフです。

(表示例)

受給者試算数について全国で見ると、2040年から2045年、2045年から2050年ともにわずかながらも増加しますが、都道府県単位で見ると、この2期とも増加するのは、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、三重県、滋賀県、兵庫県、沖縄県の9都県のみです。市区町村単位で見ると、2025年の段階で減少しているのは1,728市区町村中325市町村です。

高齢化が進んでいると言いながら、現段階で既に受給者数自体の減少が始まっていると言えます。 あくまでも一定の仮定を置いた試算ですが、気になる地域について抽出して介護保険需要の動向に関心を持っていただければ幸いです。

介護保険の認定者と受給者の地域別将来推計ダウンロード

本ページの掲載内容のうち、「介護保険の認定者と受給者の地域別将来推計」を除く本文は当法人が発行する「気まぐれ通信」2024年2月号の内容と同一です。