秋田県男鹿市を本拠地とする社会福祉法人男鹿偕生会(以下「男鹿偕生会」と言います。)が6月3日付で秋田地方裁判所より破産手続の開始決定を受け倒産したとのことです。
「社会福祉法人の財務諸表等電子開示システム(以下「開示システム」と言います。)」(WAMNET)では各社会福祉法人の現況報告書や計算書類(決算書)、定款や役員等名簿などが登録、開示されています。男鹿偕生会の場合、平成29(2017)年度から令和6(2024)年度(決算年度は2016年度から2023年度。以下西暦表記とします。)のデータが登録されています。今回は開示システム上の登録データから判明若しくは推定できる、倒産に至る経過について説明します。
男鹿偕生会の概要
現況報告書によれば、法人の設立認可年月日は1982年8月5日、1983年4月1日に特別養護老人ホーム(以下「特養」と言います。)「偕生園」(定員50人)を開設、翌年には短期入所生活介護(以下「ショート」と言います。)「偕生園」(定員8人)を、2010年10月には地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護(以下「地域密着型特養」と言います。)「わだつみ」(定員29人)を開設しました。またそれ以前に開設していた居宅介護支援センターと在宅介護支援センターは、現在は地域密着型特養に併設されています。
事業活動計算書について
サービス活動収益の大部分を占める介護保険事業収益の推移を見ると、開示システムが開始した2016年度決算から一貫して3億円から3億2千万円台を推移していましたが、2023年度は前年度よりも3,767万円減の2億8,080万円に低下、サービス活動収益計も2億8,085万円でした。現況報告書から利用率を試算すると、2022年度は特養92.5%、ショート73.2%、地域密着型特養が85.5%でしたが、2023年度はそれぞれ90.4%、32.7%、67.4%となっており、利用者数の減少が減収を招いたことが分かります。
サービス活動費用を見ると、事業費は6千万円台、事務費は3千万円前後で推移していますが、人件費は2022年度と2023年度で、2億315万円から2億4,915万円へと4,600万円も増加しており、収益の減少と相まって人件費比率は63.6%から88.7%へ跳ね上がりました。
拠点区分事業活動計算書(第2号第4様式)で人件費の内訳を見ると、2022年度には426万円だった退職給付費用が2023年度には6,054万円と14倍にもなっています。また現況報告書を見ると、2023年4月1日現在で50人いた常勤職員が、翌年には38人となっています。職員の大量退職の原因までは財務諸表からは分かりませんが、職員不足が利用率の低下による収益悪化につながったことは容易に想像できます。
長期運営資金借入金と理事会決議等
資金収支計算書を見ると、長期運営資金借入金収入が2017年度に5,500万円、2019年度と2021年度にそれぞれ3,000万円、2022年度に2,500万円、2023年度に3,000万円計上されており、2023年度末の長期運営資金借入金の残高は7,190万円となっています。赤字を借入金で補填していたことが分かります。長期運営資金借入金以外に短期運営資金借入金も50百万円あり、2023年度には役員等短期借入金13百万円や仮受金も発生して、2016年度に216.8%あった流動比率は、2023年度は73.6%まで低下しています。
上記の借入れをしながら、理事会での借入金に関する決議が少ないこと、参加役員数が「0人」の理事会があること、理事会と評議員会の日付と議決内容がほぼ同じであることなど、ガバナンスが機能していたのか気になる点もありました。
本ページの掲載内容は当法人が発行する「気まぐれ通信」2025年6月号の内容と同一です。
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