2024年7月31日

社会福祉法人の借入金と担保提供について

本年3月の厚生労働省の「社会・援護局関係主管課長会議」で福祉基盤課長が、多発する社会福祉法人の不適正事例を挙げて適切な指導監査を呼び掛け、4月には福祉基盤課から「社会福祉法人の不正事案に関する注意喚起について」という事務連絡が発出されましたが、そんな中、川崎市の社会福祉法人の前理事長が少なくとも8億円を超える法人の資金を私的に流用するという事件が発覚しました。今回はWAMNETの「社会福祉法人の財務諸表等電子開示システム」におけるこの法人の公開データ等から分かることを例として、社会福祉法人の借入金(特に長期運営資金借入金)と担保提供の手続き等について説明します。

当該法人の決算状況
平成29年度決算で設備資金借入金は4億8,114万円(万円未満切捨て。以下同じ)、長期運営資金借入金は5億2,269万円ありましたが、担保されている債務(以下「被担保債務」と言います。)の種類及び金額として注記されているのは設備資金借入金4億8,114万円のみで、長期運営資金借入金は担保されていませんでした。

平成30年度決算では、設備資金借入金は4億485万円、長期運営資金借入金は7億5,209万円で、被担保債務は設備資金借入金が3億564万円、長期運営資金借入金が3億5,000万円と、ここで初めて長期運営資金借入金が被担保債務になりました。令和元年度決算では、長期運営資金借入金は7億4,431万円に増加、全額が被担保債務となっています。その後も長期運営資金借入金は増え続け、令和4年度決算では12億5,930万円となりました(うち被担保債務は12億7,037万円と、借入金残高を超えていますが、その原因は不明です)。

借入れと担保提供に関する法令等
社会福祉法第45条の13第4項では、「重要な財産の処分及び譲受け」や「多額の借財」は理事に委任することができない(=理事会の決議が必要)とされています。「多額」の金額について説明はありませんが、各法人で定める理事長専決範囲を超える額と考えられ、基本財産の担保提供は「重要な財産の処分」に当たります。

また社会・援護局長等4部局長連名の「社会福祉法人の認可について(通知)」の別紙2「社会福祉法人定款例」では、「基本財産を…担保に供しようとするときは、理事会及び評議員会の承認を得て、〔所轄庁〕の承認を得なければならない」とあり、ただし書きで所轄庁の承認を必要としない担保提供として、①福祉医療機構からの借入れ、②福祉医療機構との協調融資である民間借入れ、③施設整備資金に際し関係行政庁による意見書を所轄庁に届け出た場合の民間借入れ、を挙げています。③は、平成31年3月に追加されました。

これらから、一定額以上の借入金には理事会の承認が必要で、基本財産の担保提供は理事会と評議員会及び所轄庁の承認が必要となります。

現況報告書に見る当該法人の手続き
当該法人の定款も厚生労働省の定款例に則って作成されています(上記③の規定は入っていませんが)。したがって、借入金の決議は理事会で毎年度、担保提供の決議は理事会と評議員会で平成30年度以降の毎年度、決議されていなければなりません。しかしこの法人の現況報告書を見ると、「運転資金の借り入れ及び基本財産の担保提供」が決議事項として明記されているのは理事会・評議員会ともに令和4年11月が初見であり、それ以前の年度には見当たりません。

借入れや担保提供について、規定どおりに理事会、評議員会で審議したうえで所轄庁に申請していれば、このような事件が起きなかったか、少なくとももっと早期に発覚・是正されたのではないかと思います。

本ページの掲載内容は当法人が発行する「気まぐれ通信」2024年6月号の内容と同一です。