2024年7月31日

自宅死と孤独死の統計について

誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような悲惨な「孤独死(孤立死)」の事例が頻繁に報道されています。「孤独死」の確立した定義はなく、また全国的な統計も存在しませんが、少子高齢社会の医療・福祉を考える際に、先ずその実態を把握することが必要です。

東京都監察医務院の統計

東京都監察医務院は、東京23区内で発生したすべての不自然死(死因不明の急性死や事故死など。いわゆる「不審死」。)の死因を究明するために、死体の検案及び解剖を行っており、またこの業務を通して死因等の統計を集計、公表しています。令和4年版統計表及び統計図表(東京都監察医務院)

この統計によれば、令和4(2022)年の検案数すなわち不審死は1万6,276件でした。平成24(2012)年の検案数は1万3,949件でしたから、10年で2,327件増加しました。また同院の別集計では、平成24年の「自宅での死亡者数(以下「自宅死」と言います。)」は7,734件でした(この集計は現段階で令和2(2020)年までしか公表されていません)。そして65歳以上の一人暮らしの案件は、平成24年の2,733件から令和4年には4,868件と約1.8倍に増加しています。これら全てが「孤独死」であったかは解りませんが、それを窺わせるものと言えます。

人口動態統計による「自宅死」

厚生労働省の「人口動態統計」によれば、令和4年の全国の死亡数は156万9,050人で、うち自宅死は27万3,265人、率にすると17.4%でした。平成24年の死亡数は125万6,359人で自宅死は16万1,242人、12.8%でしたから、この10年で死亡数は31万2,691人の増、自宅死は11万2,023人、4.6ポイントの増でした。同統計の東京23区をみると、令和4年の全死亡数は9万2,797人で、うち自宅死は2万3,844人、率にして25.7%でした。平成24年の死亡数は7万4,657人で自宅死は1万3,079人、17.5%でしたから、死亡数は1万8,140人の増、自宅死は1万765人、8.2ポイント増加しました。

自宅死の率の上昇については在宅医療・在宅介護の推進の結果であると前向きな評価がある一方、その6割前後(平成24年で7,734件÷1万3,079件)が検案件数(不審死)であることをどのように理解するか議論が必要です。

若者にも広がる孤独死

東京都監察医務院の統計について、自宅で「孤独死」した10~30代の若者が、平成30年~令和2年の3年間に東京23区で計742人確認され、うち約4割が死亡から発見までに4日以上を要していたとの報道もありました。孤独死のリスクは独居高齢者等に限らず若者にも広がっていることを示しています。

警察庁の全国統計

5月20日に警察庁が「警察取扱死体のうち自宅において死亡した一人暮らしの者~令和6年第1四半期(1~3月)分暫定値~」を公表しました。本年1~3月の警察取扱死体数6万466体のうち、一人暮らしの自宅死は2万1,716体(35.9%)、うち65歳以上は1万7,034体(暫定値)でした。全国データとして、今後の蓄積、分析が待たれます。

政府においては昨年「孤独・孤立対策推進法」を成立、本年4月に「孤独・孤立対策推進本部」を設置、6月には「孤独・孤立対策に関する施策の推進を図るための重点計画(孤独・孤立対策重点計画)」を策定しました。この計画はもちろん死亡事例対策のみならず社会に広く存在する「孤独・孤立」への対応を目的としています。福祉・医療に携わる方々には積極的に対応していただきたいと思います。

本ページの掲載内容は当法人が発行する「気まぐれ通信」2024年7月号の内容と同一です。