逆算経営の実現:下から上へのアプローチ
前回の現状分析編では、将来の再建築費用(物価高騰考慮後)を確保するためには、「現状の経営に加えて、年間約1,039万の余剰資金を多く生み出す必要がある」という目標額が算出されました。この目標を達成するための経営計画を立てる際、通常の「収入から支出を差し引きする」順計算では、得られる計算結果が目標額を充足するか検討することになり、計画策定が非効率なものとなります。そこで必要となるのが、目標とする余剰資金から逆算して、年間いくらの収入が必要か、経費をいくら削減すれば良いかを計算する「下から上へのアプローチ」です。このシミュレーションを可能にするのが、管理会計手法である「損益分岐点(収支分岐点)分析」です。
損益分岐点とは?
従来の計算書類だけでは、収入の増減に連動して増減する変動費と、収入が増減してもほぼ一定額である固定費が区別されていないため、具体的なシミュレーションが困難です。損益分岐点分析を行うためには、まず経費をこの二つに区分します。
・変動費(例: 給食事業費の一部、本人支給金など): 収入(利用者数)の増減に連動して増減する経費
・固定費(例: 人件費、施設利用費、業務委託費など): 収入の増減に関わらず、ほぼ一定額で発生する経費
この区分により、収入から変動費を引いた限界資金収支差額(限界利益)が算出され、この差額と固定費が同額になる点が「損益分岐点」となります。
4つの経営戦略シミュレーション事例
認定こども園の事例では、年間で目標とする約1,039万円の積立資産を確保するため、以下の4つのシミュレーションを実施しました 。
| 戦略 | 現状からの改善内容 | 期待される効果 (12年間の積み立て資産) |
| 1. 利用率アップ | 現状95.2%の利用率を96.0%に向上させる | 目標額を確保し、さらに336万円の余剰資金が生み出せる |
| 2. 収入単価アップ | 収入単価をわずかに引き上げる | 目標額を確保し、さらに483万円の余剰資金が生み出せる |
| 3. 変動費比率の削減 | 変動費比率を現状の5.6844%から5.0%に削減する | 目標額を確保し、さらに316万円の余剰資金が生み出せる |
| 4. 固定費の削減 | 業務委託費支出などを削減する | 目標額を確保できる |
いずれの戦略も、目標とする年間約1,039万円の余剰資金を生み出すことが可能であることが示されました。現実的には、1~4に掲げた施策を単一ではなく複合的に実行することになると考えられますが、このシミュレーションを行うことによって、何が自法人にとって効果的であるか具体的な数値を把握しながら行動計画を選択・決定することができ、結果として実現可能性が高い経営計画を策定することができます。社会福祉法人では、貸借対照表・事業活動計算書に加え、資金収支計算書(財務三表)を作成する義務があります。この資金収支計算書を活用することで、将来の建て替え資金だけでなく、借入金の償還資金や新規設備投資の資金の確保を一体的に計画することが可能になります。求められるのは、目標を先に掲げ、そこから逆算的に経営計画を立てる管理会計手法への切り替えです。
・従来の予算作成:今年度実績予測額+αで、上から下に各科目別に積算する
・求められる計画:将来の建替必要資金を計算し、その金額から逆算して、年間収入、年間支出を計画する
建て替え資金確保のためのPDCAサイクル
経営環境は、大規模修繕、借入金の償還、事業譲渡など、常に変化します。一度計画を立てて終わりではなく、これらのシミュレーションを毎年度実施し、当初の経営計画(12年間などの長期計画)に順次近づくように、誤差を修正していく必要があります。この「経営計画の立案・実施・評価・改善」のサイクル、すなわちPDCAサイクルを回していくことが、将来の建て替え資金を確実に確保するための堅実な道筋となります。
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