令和5年5月8日から、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが2類相当から5類へ変更されましたが、感染症の重症化リスクがある方が生活する高齢者施設・障害者施設では、平時から感染症への対策を継続して行うことが重要です。そのような趣旨から、東京都では高齢者・障害者施設の職員向けに感染症対策を分かりやすく解説した「高齢者施設・障害者施設向け 感染症対策ガイドブック」を作成し、保健医療局のホームページに公開しました。
◎「高齢者施設・障害者施設向け 感染症対策ガイドブック」(東京都保健医療局感染症対策部)2023.07.13
ガイドブックは、「第一部 平時から実践する感染症対策の基本」、「第二部 感染者発生時の対応」、「第三部 施設運営上の取組」の三部構成からなっています。
第一部では、先ず標準予防策の重要性や身だしなみ・セルフケア、利用者の健康観察など基本的な説明から始まり、アルコール消毒液での手指消毒や手洗いの方法、防護具の着脱の手順などをイラストや写真を用いて細かく解説しており、また、食事や入浴、排せつの介助時の注意点なども説明しています。マスクやガウン、フェイスシールド、手袋など必要な防護具の知識は周知されていると思われますが、さらに着脱の手順や注意点等が詳細に解説されている点、特に「防護具は脱ぐ時、外す時が一番重要」と強調している点などは参考になります。
第二部では、「感染者発生時対応のポイント」や「症状がある利用者への対応」について、新型コロナウイルス感染症だけでなくインフルエンザといった呼吸器症状の疾患や、ノロウイルスに代表される下痢・嘔吐症状の疾患への対応について、それぞれの症状に合わせて解説されています。感染者発生時の追加対策の基本として、感染者の居室や使用物品等を分ける等の「居室・物品の管理」、動線・担当職員や時間を分ける等の「業務の管理」、さらに消毒方法と選択の目安等は簡潔にまとめられていて参考となります。ただ、5類移行に伴い「濃厚接触者」の概念がなくなりましたが、職員やその家族に感染者が発生した場合の対応についてほとんど言及のない点には物足りなさを感じました。
第三部では、施設内で感染症が流行した場合でも運営を続けられるよう、部署ごとの定例ミーティングや連絡担当者の指名、また身近な場所やツールの活用など、平時からの職員間の「情報共有」の方法を紹介しています。また「職員のメンタルヘルスケア対策」としてセルフケアや管理者・周囲の人ができることなども紹介しています。
5類に移行した本年の第19週(5月8日から14日)の新型コロナウイルス感染症の全国報告数は12,922件で、1拠点当たりの報告数も2.63件でしたが、第28週(7月10日から16日)の報告数は54,150件、1拠点当たりは11.04件と、4倍以上に増加しています。多くの専門家も新型コロナウイルス感染症の第9波の可能性を指摘していますし、またこの3年間ほとんど流行していなかったインフルエンザが、夏期であるにもかかわらず流行しているという現状を鑑みると、複数の感染症に対する注意の重要性を感じます。各感染症に対する基本的な対策を再度認識・周知し、感染防止を強化すべきと考えます。
本ページの掲載内容は当法人が発行する「気まぐれ通信」2023年7月号の内容と同一です。